生まれつきそうなのだ

冬は、みかんの季節

はじめにやってきたのは、無肥料無農薬栽培の屋久島ぽんかん
島に暮らす音楽家が、はるばる送ってくれた
ぽんかんは、おなじ特産物のたんかんよりも、地元のひとからは人気がないらしい
味が薄いからおいしくない。というのだ
たしかに、そこはかとなさというか、存在感のうすさというか、いることをふと忘れるというか

見た目はほとんど同じなのに、みなぎるような存在感のたんかんと比べると、にこにこしているけれど大人しいおじょうさんという感じがする
でも、日々生きてゆく暮らしのなかに、つかずはなれず寄り添う、うつくしい果物だなあとおもう

今年のぽんかんは、台風にあわずにすんだので、例年よりもずっと肌がきれいなのだそうだ
そんな貴重な皮をつかって、マーマレードを煮ようと試みたら、まさかの大失敗
クエン酸とまちがえて、洗剤をいれてしまったのだ
そんな間違い、初めてのことだった
みるも無惨な、地獄の三丁目色になってしまい、鬼のような匂いがたちこめ、決して食べられない

すんでのところで無傷だった実だけを、ジャムにすることにした

せっかく、台風にあわずにすんだけど、人生(みかん生?)ってさいごまでなにがおこるかわからないよね。。
と、おもったかおもわないか

そのまま実を煮ていたら、なんだか泣けてくる
皮を、包丁で刻まずに、フードプロセッサーにかけたのだ
なぜ、そんな乱暴なことをしたのだろう
それはきっと、クエン酸と洗剤の間違いにつながってる


ぽんかんに、甘えた
ぽんかんが、あんまり大人しくてあたたかな感じなので、つい甘えたかもしれない
そしてぽんかんを、甘くみた
甘いけど、甘くないのに

みかんは、ひとの手にすうっとおさまる形と大きさをしている
小さなみかんは片手に、おおきなみかんは、両手にもっても重すぎることなく、かたすぎも柔らかすぎもせず、うれしい。みずみずしく、老若男女の手におさまるあのどこまでも明るい色。肺を満たす香り。
そうして、掌におさめていると、心が晴れてあたたかく、元気なしあわせに包まれてゆく

ちいさなお日様のような
煮ていると、それがぎゅっとなって、こちらに伝わってくるみたいだ


「生まれつき」と、ふとおもう

ぽんかんの生まれつきの明るさ、あたたかさ、素直さ、あまりにも本物の。

そいういう、本物の生まれつきに触れると、心はアッとおもって、うごく
人間もそうだろか。こんなに本物の生まれつき。あるだろうか。あるだろう。
人間のそれは、生きてゆくうちに隠れがちだけれど

そういう生まれつきを、こわさないように、大切に、お料理をする
それしかできないのに、
あまりにも無垢なものにふれると、じぶんのなかの毒がでてきてしまうことがある

おそろしい毒だった

実のジャムは、そこはかとなく、存在感うすく、にこにこしている大人しくてかわいいお嬢さんというかんじの味がした
でも、ぽんかんはつよい
もしかしたら、たんかんよりもずっと。
それを屋久島の地元のひとは、ほんとうは知っているのかもしれない、な。
と、ちょっとおもったりして。
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