お芋の声


宇宙飛行士は、あんまり言わないけどじつはわりと、未確認飛行物体を見ているらしい

という都市伝説しかり、料理人や台所の母たちも、あんまり言わないけど実はわりと食材の声を聴いている、
と、私はおもっている


なぜあんまり言わないのかというと、NASAとか農協に口止めされてるとかいう理由じゃなくて、
なんとなく、あまりにそれが自然なことので、聴いているという感覚すら薄く、特に言うまでもないような感じがするからかもしれない
だいたい、耳で聴くというよりは、声を別の器官で感じとるというふうなのだ

でも、ときどきドキリとするようなかんじで、野菜の声が耳に近く聴こえることがある
旬の新鮮な野菜たちに触れていると、そういうことがおこる

この間、さつま芋を蒸かそうとして洗って、いったん調理台の上において、蒸篭を準備していたら、
少女たちがはしゃぐような声がした
漫画風に言えば、ちょっと古いけど
キャハハ
というかんじ

思わず振り向く
まな板の上で、色よく、つやつや、ふっくらとしたさつま芋は、無邪気で元気な女の子たちに似ている
これから蒸かされ、つぶされるというのに、ものすごく楽しそうだ
野菜は、切り刻まれているときでも、楽しそうに声をあげることがある
不気味だ
不気味だけれど、なんとも言いがたい神々しさも、感じる
なんだかもう、すごい
と、おもう

野菜の声をきいたからといって、それが野菜の本質なのかというと、そういうわけでもないんじゃないの
と、おもう
それは私が聴いた声だから、別のひとが聴けばもっと、その野菜の別のキャラクターがあらわれるのかもしれない
別の日には、別の野菜の気分もあるかもしれない

ちょっと聴いたからって、わかったようになってはいけない

だからってどうすることもできないし、どうしようもないし、お湯は沸いたし、手をあわせるでもなく、何事もなかったかのように、料理はつづく


けれど、野菜の声をきくと、
野菜よりじぶんのほうがえらいとおもったら大間違いだ
と、そっと、つぶやく

日々料理をしていると、野菜よりも自分がえらいと、いつの間にか無意識におもっていたりする
すぐにそうなる
そういうじぶんが、ピシャリとやられる出来事

こんなにも不気味で神々しく、なんだかすごい生き物を、日々の営みのように料理させてもらえるなんて、
信じられないドリーミーで、けっこう重い事態だともいえるんじゃないの、と、おもったりしながらも、
暗い気分にもドリーミーな気分にも浸る間もなく、
やっぱり

蒸篭に湯気がたっている今は、ともかくもさつまいもたちと向き合うばかりなんだなあ



◯料理の合間につくり料理の合間に食べる、さつま芋の賄いスープ

蒸かしたさつま芋をすこし取り分けて小鍋に入れ、木のスプーンでつぶす
岩塩と、オリーブオイル少々、スパイス少々、好みでコンソメ少々。
お水を注いで、混ぜながら煮る
ピュレ状になったら、豆乳をすこし加える
再度湧いたらできあがり
黒こしょうをひいて、あればハーブを散らす
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